スタッフブログ
2026.09.29

「今期は月商300万円を目指す」。決めた瞬間は気持ちが引き締まります。ところが翌朝、店でやることは昨日と変わっていない。目標は「数字」ですが、実行の段階では「行動」でしかない。この断絶が目標を絵に描いた餅にします。
埋める道具がKPIツリーです。売上という結果の数字を四則演算で枝分かれさせ、「1日に何人へ、何を」という行動の単位まで下ろす。紙と電卓があれば作れます。この記事では月商250万円の店が300万円を目指す設定で、枝を書き、数字を入れ、「今日やること」に変えるまでを通しでやります(すべてモデル計算)。
「月商50万円アップ」が動きにくいのは、金額が大きいからではなくその数字に対応する行動が存在しないからです。あるのは「1人多く来てもらう」「1杯多く注文してもらう」だけ。
売上 = 客数 × 客単価
出発点はこの売上の方程式。売上が掛け算である以上、片方を20%上げるより、両方を10%ずつ上げるほうが楽で結果も大きい(1.10×1.10=1.21)。片方だけで20%を取りに行くと、席数や人手の上限にぶつかります。
①一番上に、金額と期限つきの売上目標を書く。期限のない目標は動きません。②2段目は必ず「客数 × 客単価」(業種を問わず共通)。③3段目から下は、自店の売上の「でき方」に合わせる。業種別の型は下表のとおりです。
④枝は必ず四則演算でつなぐ(最重要)。「売上=客数×客単価×SNSフォロワー数」と書く人がいますが、フォロワー数は構成要素ではなく、客数に効きうる要因。混ぜた瞬間ツリーは検算できなくなるので、要因は外に「打ち手」として書きます。
⑤4段目で止める。5段目以降は数えられず、管理の手間が効果を上回ります。⑥末端を「1日あたり」「1時間あたり」に直す。「月+50万円」は動けませんが、「1時間に1人ドリンクを追加してもらう」なら動けます。
| 業種 | 客数の分解 | 客単価の分解 |
|---|---|---|
| 飲食店 | 席数 × 回転数 × 満席率 | メイン単価 + 付帯単価 × 付帯率 |
| 物販・小売 | 入店客数 × 買上率 | 1点単価 × 買上点数 |
| 美容室・整体など予約型 | 予約可能枠 × 枠充足率 | 施術単価 + 店販単価 × 購入率 |
| 教室・サブスク型 | 前月在籍 - 退会 + 新規入会 | 月謝 + オプション × 加入率 |
月〜土の月25日営業、月商250万円の飲食店をモデルにします。
現状を分解します。①250万円 ÷ 25日 = 1日10万円。②1日の客数100人。③客単価=100,000円 ÷ 100人 = 1,000円。ここまで割り算だけです。3段目に下りると、内訳は新規25人・再来75人。新規は、④店前を1日に通る人(店前商圏の大きさ)1,000人 × ⑤気づいて内容まで見る人10% × ⑥入る人25% = 25人。再来は、⑦常連625人 × ⑧月3.0回 = 1,875人回 ÷ 25日 = 75人。客単価は、⑨メイン平均850円 + ⑩ドリンク300円×付帯率50%=150円 で1,000円です。
目標を配ります。全部は動かさず、動かす枝を5本だけ選びました。
| 階層 | 指標 | 現状 | 目標 |
|---|---|---|---|
| 1段目 | 月商 | 250万円 | 300万円 |
| 2段目 | 1日の売上(25日営業) | 100,000円 | 121,000円 |
| 2段目 | 1日の客数 | 100人 | 110人 |
| 2段目 | 客単価 | 1,000円 | 1,100円 |
| 3段目 | 新規客(1日) | 25人 | 30人 |
| 3段目 | 再来客(1日) | 75人 | 80人 |
| 4段目 | 店前通行者数(1日) | 1,000人 | 1,000人(与件) |
| 4段目 | 認知率 | 10% | 12% |
| 4段目 | 入店率 | 25% | 25%(据え置き) |
| 4段目 | 常連客数 | 625人 | 625人(据え置き) |
| 4段目 | 月の来店頻度 | 3.0回 | 3.2回 |
| 3段目 | メイン平均単価 | 850円 | 880円 |
| 3段目 | ドリンク付帯率(300円) | 50% | 60% |
| 3段目 | デザート付帯率(200円) | 0% | 20% |
検算します。新規=1,000人×12%×25%=30人。再来=625人×3.2回=2,000人回 ÷ 25日=80人。客数は110人。客単価=880円+(300円×60%=180円)+(200円×20%=40円)=1,100円。1日110人×1,100円=121,000円、月商は×25日で3,025,000円。目標を2万5千円上回りました。
客数側と客単価側の両方を動かして初めて届きます。5本の内訳は客数側が2本(認知率+2ポイント、来店頻度+0.2回)、客単価側が3本(メイン平均+30円、ドリンク付帯率+10ポイント、デザート付帯率+20ポイント)。客数側の2本だけなら110人×1,000円×25日=2,750,000円、客単価側だけなら100人×1,100円×25日=同じく2,750,000円で、どちらも25万円の未達。両側に配るから1本あたりの伸びが小さくて済みます。
認知率 10%→12%。店前を通る1,000人のうち、気づいて内容まで見る人を100人から120人に。1日+20人、10時間営業なら1時間に2人です。打ち手は「店頭のA型看板を、何の店かが分かる表示+本日のおすすめの2段構成にし、週1回書き換える」。あとは誰がいつ書き換えるかを決めるだけ。
来店頻度 3.0回→3.2回。常連625人の延べ来店が1,875人回から2,000人回へ、+125人回。1人あたり月0.2回とは、5人に1人が月1回多く来るということ。打ち手は「会計時に、次に来る理由をひとつ渡す」。値引き券でなく限定メニューの予告でも成立します。
メイン平均単価 850円→880円。全品を30円上げる話ではありません。上げるのは平均。注文の6割を占める主力3品だけを50円上げれば、平均は50円×60%=30円動きます。金額では1日110人×30円=3,300円、月82,500円。「どの品を・いくら・いつから」を決め、メニュー表と店頭表示を同じ日に差し替えるまでが1セットです。
ドリンク付帯率 50%→60%。目標の1日110人で数えると、頼む人は55人→66人で+11人、10時間営業なら1時間あたり1.1人。注文時の一言を全員で揃えれば届く。デザート付帯率 0%→20%は110人×20%=1日22人。一言では届かず、メニュー化と卓上の案内という投資が要る。末端まで割ると、声かけで済む枝と投資が要る枝が分かれます。
KPIツリーは全部を追うと破綻します。14個の指標を毎日集計できる店はありません。だから作った直後に「削る」作業を入れます。基準は①数えられるか、②自分たちの打ち手で動かせるか、③売上への影響が大きいか。③は計算で確かめられます。
| 単独で+10%改善する指標 | 改善後の月商 | 増加額 | 実行の難しさ |
|---|---|---|---|
| 店前通行者数(1,000→1,100人) | 2,562,500円 | +62,500円 | 高(自店では動かせない) |
| 認知率(10→11%) | 2,562,500円 | +62,500円 | 中(店頭表示で動く) |
| 入店率(25→27.5%) | 2,562,500円 | +62,500円 | 中(価格表示・店内の見え方) |
| 常連客数(625→687.5人) | 2,687,500円 | +187,500円 | 高(時間がかかる) |
| 来店頻度(3.0→3.3回) | 2,687,500円 | +187,500円 | 中(既存客への働きかけ) |
| 客単価(1,000→1,100円) | 2,750,000円 | +250,000円 | 中〜高(客数減の副作用) |
同じ10%でも、客単価は新規客まわりの4倍効く。次が再来客まわり、いちばん薄いのが新規集客の入口です。にもかかわらず多くの店では会議の大半が新規集客に使われ、感度の低いところにいちばん高い労力を払っています。
ただし感度が高い=優先すべき、ではありません。客単価には客数が減る副作用があるので、感度と実行難易度の両方で選びます。そして目標を置く枝と、毎日追う指標は別もの。目標は5本でも、会議で見るのはこのモデル店なら「来店頻度」「ドリンク付帯率」「認知率」の3つ。日々見るのは1つ、週次は2つまで。
失敗1:数えられない指標を置く。「顧客満足度」は毎月測れません。「再来率」のように自店で数えられる代理指標に置き換えます。数えられない指標は、置いた時点で放置が確定します。
失敗2:全部の枝に目標を置く。14本すべてに置けば、期末には14本すべてが中途半端に未達になります。動かすのは多くて5本、残りは「据え置き」と明記します。
失敗3:結果指標だけを見る。売上・客数は起きたことの記録で、悪化に気づいたときには手がありません。行動側の指標(声かけの実施率、掲示の更新回数)を1つ並べます。
最後に線引きの話です。指標を強く追うと、現場は「数字を作る」方向に歪みます。経済学者チャールズ・グッドハートに由来する「グッドハートの法則」——指標が目標そのものになると良い指標ではなくなる——です。付帯率のために、要らないと言うお客様へ重ねて勧める。これは接客ではなく、お客様の判断を狭める設計です。
歯止めは単価系のKPIに必ず再来率をセットで並べること。押し売りは再来率を下げるので、数字がブレーキになります。そのうえで「そのお客様が後日ふり返ったとき、損をしたと感じないか」を基準にし、感じるなら採用しない。この一線がKPI運用を長続きさせます。
KPIツリーは難しい手法ではありません。売上の方程式を出発点に、四則演算で4段まで下ろし、末端を1日・1人の単位に直すだけ。要点は四則演算でつなぐ、4段で止める、追う指標は3つまで削るの3つです。まずは先月の月商を営業日数で割ってみてください。
A. 1週間だけレジで「初めてのご利用ですか」と数えれば十分です。目的は正確な把握ではなく、どの枝を動かすかを決めることだからです。
A. ツリーは検算できることが命なので、丸めるのは最後の一段だけに。途中で四捨五入すると上下の段が合いません。末端を行動に直すときは切り上げ(1日22人を10時間で割った2.2人なら「1時間に3人」)にすると、目標が未達側にぶれません。
A. 必ず上から順に見ます。売上が未達なら客数と客単価のどちらが計画割れか、客数なら新規と再来のどちらか、と下りていく。この順なら原因は1〜2本に絞れます。
A. そのスタッフが自分の行動で動かせる指標を1つだけ共有するのが現実的です。月商や利益率を渡しても現場では手の打ちようがありません。なお、達成度を手当や評価・処遇に結びつける場合は賃金や労働時間の扱いに関わるため、制度にする前に社会保険労務士にご確認ください。
【監修】株式会社ミライベクトル 取締役社長 大平典男(中小企業診断士/MBA)
看板・広告業に携わり20年。名古屋市守山区を拠点に、東海3県で看板の企画・デザイン・製作・施工を自社一貫で行っています。経営に関するご相談も承っております。(会社案内)