スタッフブログ
2026.09.24

「今月も何となく忙しかったけれど、去年より儲かっているのか正直よく分からない」。店舗経営のご相談で、いちばん多く聞く言葉です。
売上が落ちたと感じたとき、多くの店主がまず手を出すのは値下げかチラシです。けれどそれは、体温を測らずに薬を飲むようなもの。効いたのか分からないまま資金が減ります。
中小企業診断士が店舗診断に入るとき、特別なことはしていません。決まった順番で、決まった数字を追うだけです。この記事ではその順番を5ステップに開き、そのまま使えるチェックリストにまとめます。
診断は次の5層を下から順に見ます。①現金(あと何ヶ月もつか)②売上の方程式(どの要素が動いたか)③コスト構造(いくら売れば赤字を抜けるか)④相対ポジション(商圏内でどこに立つか)⑤打ち手(何にいくらかけ、いつ結果を見るか)。
順番を守る理由は、下の層が壊れていると上の打ち手が効かないからです。原因が客数なのに客単価を上げれば、客数はさらに落ちます。
真っ先に見るのは利益ではなく現金です。以下、郊外のカフェ(24席、スタッフ5名、月25日営業)をモデル店として通します。数字はすべてモデル計算です。
この数字で変わるのは金融機関に相談すべきタイミングです。資金の話は、余裕があるうちのほうが選択肢が広い。生存月数が3ヶ月を切るなら、集客より先に資金の話が順番です。なお借入返済の元金は費用ではないため、次章の固定費には入れません。
シリーズ共通で使う売上の方程式はこうです。売上=客数×客単価、客数=新規客+再来客、新規客=店前通行量×入店率。この「店の前を通る人のうち、どれだけ気づかれ入られているか」を店前商圏と呼びます。
新規は取れている。落ちたのは再来。認知ではなく来店後の体験の問題です。
| 落ちた項目 | まず疑うこと | 打ち手の方向 |
|---|---|---|
| 新規客数 | 店前商圏。通行量・気づかれ方 | 店の外側。認知と入口 |
| 再来客数 | 前回の体験。味・接客・待ち時間 | 店の内側。体験の再設計 |
| 客単価 | 品揃え、セット提案、値付け | 商品構成と提案の順番 |
| 全部が同時 | 商圏の変化。大型施設の閉鎖など | 打ち手より先に事実確認 |
費用を変動費(原価・資材・決済手数料)と固定費(人件費・家賃・水道光熱・減価償却など)に割ります。
利益で見るともっと厳しい。営業利益は前年420万×0.65−206万=67.0万円、今年378万×0.65−206万=39.7万円。売上は10%減っただけなのに、利益は40.7%減です。
また固定費を1万円減らせば利益は1万円増えますが、売上を1万円増やしても利益は6,500円しか増えません。利益を1万円作るには売上が10,000÷0.65=15,385円必要で、客単価1,500円なら約10人の追加来店が要ります。ただし固定費には未来の売上を作るものも混ざります。切る順番は「今にも未来にも効いていないもの」から。
診断士が必ずやるのは競合3店を客として使い、自店と同じ項目で並べること。主力価格帯・提供時間・混雑時の空席数・客が言った「選ぶ理由」を実測で埋めると、商圏内での立ち位置=相対ポジションが見えます。「味で勝負」と書くのが最大の失敗例。測れない項目は比較できません。
次に時間帯ポートフォリオ。人時売上高=売上÷投入した労働時間です。
| 時間帯 | 客数 | 客単価 | 売上 | 投入人時 | 人時売上高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 朝 8〜11時 | 24人 | 850円 | 20,400円 | 6人時(2人×3h) | 3,400円 |
| 昼 11〜15時 | 44人 | 1,680円 | 73,920円 | 16人時(4人×4h) | 4,620円 |
| 夕 15〜18時 | 18人 | 1,150円 | 20,700円 | 6人時(2人×3h) | 3,450円 |
| 夜 18〜20時 | 15人 | 2,400円 | 36,000円 | 6人時(3人×2h) | 6,000円 |
| 合計 | 101人 | 1,495円 | 151,020円 | 34人時 | 4,442円 |
表は1日平均のモデル値、端数は四捨五入です(月合計とわずかにずれます)。①1日の人件費118万÷25日=47,200円を34人時で割ると平均1,388円/人時。②人件費を賄うのに要る人時売上高は1,388÷0.65=約2,135円。③朝も夕もこれを超えています。「朝は暇だから閉める」は早すぎる結論です。
ただし朝は夜の57%(3,400÷6,000)。打ち手は「閉める」ではなく「薄くする」。朝を6人時から4.5人時にすれば人時売上高は4,533円(20,400÷4.5)、浮く人件費は1.5人時×1,388円=2,082円/日、月25日で52,050円。ただし提供が遅れて客が離れれば逆効果です。労働時間の変更は労働基準法に関わるため、社会保険労務士にご確認ください。
課題は「昼を取り切れておらず、再来が落ちている」に絞れました。優先順位の軸は効果の大きさと着手のしやすさの2つ。お金がかかる打ち手には回収月数=投資額÷月あたりの効果額(増える限界利益+減る固定費)を足します。売上そのものではなく限界利益で見るのが要点です。
| 打ち手 | 投資額 | 効果の見込み | 月あたりの効果額 | 回収月数 | 見込みの確かさ |
|---|---|---|---|---|---|
| A:セルフオーダー端末 | 38万円 | 昼ピークの人手削減+回転率改善 | 4.0万円 | 約9.5ヶ月 | 中 |
| B:ファサードと看板の刷新 | 65万円 | 新規入店が月120人増 | 11.7万円 | 約5.6ヶ月 | 低 |
| C:昼の看板メニュー開発 | 22万円 | 客単価が60円増 | 9.8万円 | 約2.2ヶ月 | 高 |
| D:エスプレッソマシン更新 | 90万円 | 提供短縮でピーク客数が1日8人増 | 19.5万円 | 約4.6ヶ月 | 中 |
Cの分解です。①60円×月2,520人=151,200円の売上増。②151,200×0.65=98,280円の限界利益増。③220,000÷98,280=約2.2ヶ月。なおAのみ、効果額の中身は人件費の削減分です。
ただし回収月数が短いものが常に正解ではありません。Cの「単価+60円」は自店で決められますが、Bの「新規+120人」は外部要因次第。だから「見込みの確かさ」の列があります。外向きの投資は、先に店前商圏(通行量と入店率)を測るのが順番。測っていない投資は賭けです。
進め方は3つ。①同時に走らせる打ち手は3つまで(どれが効いたか分からなくなります)②着手前に「何の数字を、いつ見るか」を決める(最低4週間)③数字を良く見せることを目的にしない。
○×ではなく「その数字を今すぐ言えるか」で分けてください。言えない項目こそが最大の課題です。四半期に1回、90分。
ステップ1|現金
ステップ2|売上の方程式
ステップ3|コスト構造
ステップ4|相対ポジションと時間帯
ステップ5|打ち手
経営診断の価値は、悪いところが分かることではありません。店の会話が数字の上で行われるようになることです。「最近ヒマだね」は議論になりませんが、「昼の人時売上高が先月より600円下がった」は議論になります。
最初の1回は、半分の項目で「数字が言えない」はずです。それで正常。言えなかった項目を記録し、次の四半期までに測れる仕組みを1つ作る。4回続ければ、このリストはほぼ埋まります。
A. 自分でやる価値は十分にあります。数字を自分の手で追った経営者は、その後の判断が速くなります。加えて、国(中小企業庁)が全国47都道府県に設置した「よろず支援拠点」は、経営相談を何度でも無料で受け付けています(2026年8月時点)。
A. 必要ありません。試算表と月次の客数・客単価があれば電卓で出せます。体系立てたい場合は、経済産業省が「ローカルベンチマーク」のシート(財務6指標と非財務4視点)を無料公開しています(2026年8月時点)。
A. 現金だけは毎月、全体は四半期に1回が現実的です。大切なのは頻度より項目を変えないこと。同じ物差しだから変化が見えます。
A. 全部を見せる必要はありません。有効なのは時間帯ポートフォリオで、「この時間帯は自分たちがいちばん稼いでいる」が見えると現場の判断が変わります。個人の給与に関わる数字は慎重に。
A. 値上げは正当な打ち手です。安全余裕率が数%の状態を放置するほうが、お客様にとってもリスクになります。ただし、価格は据え置いて量だけ減らすようなやり方で失うのは再来客。正面から幅と理由を伝えてください。
診断で使う分析フレームは、次の記事で掘り下げます。
【監修】株式会社ミライベクトル 取締役社長 大平典男(中小企業診断士/MBA)
看板・広告業に携わり20年。名古屋市守山区を拠点に、東海3県で看板の企画・デザイン・製作・施工を自社一貫で行っています。経営に関するご相談も承っております。(会社案内)